やがてヒトは火を使うようになり、文化的生活を営むようになって、ついには文明を築き上げた。この頃になると、時間とは何か、存在とは何か、何故自分達は生きているのか、この世界を構築するものは何か、などと、ごくわずかな人間達が疑念を抱き、思索するようになる、しかしそれらの謎を究明したところで明日食える飯の量が二倍になるというわけでもなかったので、誰も気にしなかった。気にしたごく一部の人々は思索に没頭し貴重な時間を空費し、無駄な人生を過ごす羽目になったが、彼らは気にしなかった。彼らの内何人かは象牙の搭と呼ばれる僻地に篭って一生を思考に費やしたが、何を考えようと周囲の人間は全く気にしなかった。だから彼らも気にせず思考に耽ったが、そんなこと誰も気にしなかった。”
“二十世紀に残したツケがここにきて一挙に降りかかってきたが、生半可な気持ちで課題にとりかかればほぼ確実に発狂するので、こわがってみんな気にしないことにしている。飲み屋かサ店に二人以上で座っているか、液晶画面をながめているときに、見栄を張って、ちょっと気にしているふりをするくらいである。この気に乗じて事あるごとに議論を吹っかけ、新書を乱発し、物議をかもして名を上げようとする連中がごまんといるが、誰も気にしない。こうしているあいだにも、どんどん問題が先送りにされてゆくが、日々の生活や暇つぶしに頭をはたらかせることが精一杯の老若男女はもちろん気にしない。自分達が人間から脱落しても、既に人間意識が無い為に誰も気にしない。斯くして人類は自然消滅するのだが、自己認知すら出来なくなった人類の間においては、もはや誰も気にしない。
誰も気にしない - アンサイクロペディア